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2005年5月号 チェコ人の人形劇意識

[2007.01.05] [「児童演劇」原稿]

チェコ人の演劇・人形劇に対する意識が、
他国と比較してもかなり高いのではないだろうか、と考える理由。
それを理解してもらうためには、ヨーロッパ大陸の真ん中にある
この小さな国の歴史を多少ひもとく必要がある。

チェコ人形劇の起源は、他の国々と同様に原始の宗教儀式にまで遡ってしまうが、
「劇人形」としての技術的基礎は、オランダやイタリア、ドイツなどの
旅芸人が持ち込んだ人形芝居が根付き、工夫されたものと云われている。

十八世紀から十九世紀にかけて強大なオーストリア・ハンガリー帝国の支配を
受けていた時代には、都市部や公的な場ではドイツ語の使用が強制された。
しかし人形劇や田舎廻りのドサ芝居ではチェコ語が認められており、
旅芸人たちは当時プラハで流行っていた話題、ファッションや政治について
面白おかしく芝居仕立てにして、地方の民衆に披露していた、と云われる。

結果としてそれがチェコ語を守る、ひいてはチェコ人としてのアイデンティティーを
守ることに結びついた。

第二次大戦後、またまた強大なソ連の指導のもと、社会主義がスタートすると同時に、
優れたアマチュア人形劇団が次々と国有化され、人形遣いは国家公務員、
芝居作りも税金で予算化される、というある意味での黄金時代が始まる。

しかし国が奨励する芸術として予算をもらって、次々と創作する中、
芸術家たちはおよそ考えつく限りの人形を使ったファンタジー、
技術的バリエーションをやり尽くしてしまったと云う。

世界中の民話や伝説を、ありとあらゆる舞台トリックで劇化し倒した、という感じか。
そうやって仕事がマンネリ化していったとき、なんとかこの状況を打破しなければ、
芸術の一ジャンルとしての人形劇が死んでしまう、何よりも社会主義がどんどんダメになって、
国の財政が落ちてきて、お客さんの数も減って、さあいよいよ革命だよ、という時期に、
もうとにかく何か新しいジャンルを創造しなければ自分たちが食いっぱぐれてしまう、という
危機感のなかで生まれたのが「フィギュアシアター」という作劇概念だった。

彼らは、オブジェとか等身大の木彫りの人形とか、どう見てもパペットや
マリオネットとは呼べないようなモノが舞台に登場する芝居をつくりはじめた。
フィギュア(形態、形象)シアターとは、ようするに開かれた人形劇、人間も出るし、
人形も出るし、モノも出るし、仮面も出るし、どんなジャンルともクロスオーヴァできる、
形あるものの舞台ということで考えられた呼び名だった。

ぼくは二〇〇〇年から二〇〇一年にかけて、日本の国際交流基金と
チェコの劇団ドラックが共同制作した「モル・ナ・ティ・ヴァシェ・ロディ!=ロミオとジュリエット」という作品に、プロデュース、共同演出として参加した。

登場する人形は等身大に近いロミオとジュリエットの二体のみ。

0505.jpg
「モル・ナ・ティ・ヴァシェ・ロディ!=ロミオとジュリエットより」

この作品でぼくと演出のヨセフ・クロフタ(劇団ドラックの芸術監督であり、
チェコ国立芸術アカデミーの教授でもある)が試みたのは、
文楽をはじめとして日本の古典人形浄瑠璃が世界に誇る「三人遣い」、
つまり、一体の人形を三人の遣い手が背後から操る、という手法の現代的アプローチだった。

簡単に説明する。

ロミオの人形の背後で彼を操ろうとする三人の俳優はモンタギュー家の一族、
ジュリエットの背後には三人のキャピュレット家の人々。
いずれも自分たちの息子や娘を思い通りに「操ろう」とするのだが、
愛し合う二体の人形、ロミオとジュリエットは誰からも操られることを嫌い、
やがて二人きりで心中してしまう。操作者から逃れた、
あるいは操作者を失った人形、彼らはラストシーンで舞台中央に横たわり「完全な死」を
表現することになる。これが作品の基本コンセプトだった。

人形操作も役者としての演技も要求されるため、この作品には日本とチェコの頭も
身体も柔らかい若手俳優たちを中心に起用し、ヨーロッパ・ツアーを展開、
多くの街で若者たちの絶賛を浴びた。

「操るもの」と「操られるもの」。ときにはその逆転(ぼくが以前に出演した芝居には、
自分たちが舞台上で組み立てた偶像に自分たち自身が支配され、やがて奴隷になってしまう、
というものがあった)。ここにぼくはチェコの人々が持っている基本的な思想、
というか体質みたいなものを感じる。

長い歴史の中で何度も大きな国に蹂躙され、支配され続けたチェコ。

しかしそのたびに人々は劇場に集い、自分たちの境遇を笑い、
為政者が掲げるスローガンを笑い、
「真実」と呼ばれるものの多面性に気づいてきたのではないだろうか。

つづく

2007.01.05 / 10:12

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