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こどもたちのカルチャー・キャンプ(後編)
[2008.06.16] [「児童演劇」原稿]
児童演劇 2005年7月号掲載記事
こどもたちのカルチャー・キャンプ(後編)
前回は、チェコのカルチャー・キャンプについて、ぼく自身が実施したサブジェクトから、カリキュラム全体の三分の二までを書いた。
その一、自由で新鮮な感覚で身体を動かすためのボディ・エクササイズについて。
その二、身のまわりのさまざまな素材を使って挑戦する人形浄瑠璃の三人遣いについて。
さて、今回はその三、いくつかのグループに分かれて実際に芝居を作るメインのパートについて、だ。
この段階で大活躍する機械が登場する。OHP(オーヴァ・ヘッド・プロジェクタ)と呼ばれる光学投影装置である。きわめて特殊なプロ仕様、ではない。皆さんも小学校などで見覚えがあるだろう、透明なプラスティク・シートにグラフや文字を書いて、デスク状のガラス面に載せ、下から透過する光を鏡に反射させてイメージを投影する、仕組みとしてはとてもシンプルな機材である(最近はデジタル・プロジェクタに押され、備品倉庫の片隅でホコリにまみれて眠っている…)。

「OHPを使って、森の赤ずきん」
森で子どもたちと拾った木の葉や木の実、透明なアクリル・ケースに満たした水や油、
カーテンのレースや、自分の手など。おおよそありとあらゆるモノをガラス面に載せ、
投影の効果を試してみる。子どもたちから歓声が上がる。
自分の手元にある小さな秘密基地から発信されるイメージが、
大きなスクリーンに映し出され、それらが動く不思議さと驚きが彼らをとらえる。
スクリーンは、大きな布地を広げたり、半透明のゴミ袋を切り開いてつなぎ合わせたり、
これも子どもたちとの共同作業で工夫して作ってゆく。
やがて、ただイメージを映すだけの影絵遊びから、スクリーンの前に立ち、
自分の体や人形に映像を映しこむ、さらに踏み込んでそれらのイメージと共演してみる、
などさまざまな演劇的冒険が始まる。始まらないときにはこっちからそそのかす。
この過程で重要なのは、綺麗な映像効果にただ振り回されてしまわずに、
人間が持つ身体表現の強さや、「劇人形」が持つ奇妙で深いクオリティを
しっかりと作品に加えてゆく、という作業だ。ステップ一のエクササイズや、
二の人形遣いトレイニングは、そのためにある。
例えばこんな作品があった。
舞台上に大きな野点傘(屋外で茶の湯を楽しむために使う、
あの大きな赤い傘。ぼくが日本から持ってきた)が開いておいてある。
傘の裏側で照明と切り絵を使った影絵が始まる。
子どもたちが小さな亀をいじめている様子。
ひとりの少年があらわれ亀を助けだす。
傘の表側にはOHPを使った水の映像が揺れ始め、裏側では亀に
またがった少年の影絵人形が、ふちの辺りからぐるぐる回りながら
中心軸へ向かって近づいてゆく。
ははあ、どうやらあのあたりに龍宮城があるらしい、と気づいたとたんに、
傘の裏から生身の役者たち、浦島太郎と乙姫が飛び出してくる。
すぐに「こんにちは」「ようこそ、太郎」とドラマは次の場面にジャンプする。
さっきまで海だった大傘が立ち上がり、乙姫の豪華な日除けに早がわりする。
チェコの子どもたちは、その日の朝に初めて聞いた日本の昔話を、
夕暮れまでにテンポの良い短編に仕上げた。
「三匹のこぶた」グループは、二本の柱の間に何往復も張り巡らせた
幅広の白いゴムバンドをスクリーン、また演技空間として使った。
こぶたたちが作るわらや木、レンガの家は、OHP上でティッシュペーパや枯れ枝、
また小石を家の形に並べてスクリーンに投射し、表現した。
これらの「即席建築」が便利なのは、舞台上の狼(人形ではなく生身の役者)が
スクリーンに息を吹きかける演技に合わせて、OHP係の裏方も実際に家を
ガラス面から吹き飛ばせる点にある。そしてお約束どおり、石の家は重いので飛ばない。
観客は狼の熱演とOHP係の奮闘、その両方を見ることができる。
家の中に隠れているこぶたたち(これは人形で、狼とのサイズ差が際立つ)は、
スクリーンのすき間から、次々と顔を出したり引っ込めたりして、狼を翻ろうする。
ゴムバンドの張力による素早い伸縮がそのスピード感を生んでいた。
カルチャー・キャンプの最終目的は共同生活の訓練ではなく、
その先にあるサブジェクトの達成だ。主催者は、その環境作り、
とりわけ子どもたちの健康管理に気を配る。
医師か看護士が常時滞在することが義務づけられているし、
栄養面からの配慮と、貴重な時間を自炊で浪費しないために、
専門の調理師(なぜかたいてい恰幅も気立ても良いおばさん)が付いて、
毎食チェコの田舎料理を提供してくれる。
こげたカレーで苦しんで稽古ができない、ということは起こらない。
さあ、今年ももうすぐ夏休みが来る。
つづく
2008.06.16 / 15:21
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コメント
世界のノリサワ様
「D」拝見しました!正座して!
以前見た、熊川哲也さんのインタビューを思い出しました。
「日本では、バレエのプロが食べていけない現実がある。
だから、プロが食べていけるように、食べていけるプロを
育てる為に僕はバレエ団を立ち上げた」
というような内容でした。
海外の色々なお話を伺うと、本当に、日本って芸術家が食べていくのが難しい国ですよね。
ですが、北海道(札幌)には、
小説「希望の国のエクソダス」の主人公達が目をつけたように、
直に、というか、(首都を介さずに)独立国の様に、物事を企てられる気質とか
風土とか、地理的条件とかがそろっているのかも。
沢さんの構想というか、野望というか、是非かなえて欲しいっすね。応援します、あ、応援させて頂きます!
で、どう応援するか…
ん~、とりあえずは、応援態勢を整えるために、アラブの大富豪の嫁の口を探すことから始めるか(^^)v
2008.06.16 / 16:21 | 投稿者 michakoja

