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沢則行のチェコ便り 2005.4月号
[2006.07.18] [チェコの文化紹介]
チェコ共和国の首都プラハから東に約三百キロ、工業都市オストラヴァにある公立人形劇場、
ディヴァドロ・ロウテク・オストラヴァで、昨年から今年にかけて子ども向けの新作を仕込んだ。
赤ずきん、三匹のこぶた、七匹の子ヤギ、それに日本の昔話オオカミのまつげ、
というオムニバスで、チェコ語の題名は
「チティジィ・ポハートキィ・ス・ヴルキィ・ザ・ヴラートキィ」。
語尾の「ィ」で韻を踏む唄遊びのような音感で、
直訳すると「垣根の裏のオオカミと四つの昔話」ほどの意味。

オストラヴァのメンバーと
日本語の何々劇場、あるいは何々座、にあたるチェコ語は
ディヴァドロ(Divadlo)で、英語ではシアター(Theatre)だと思うのだが、
一般的にこの単語は「劇場」を意味すると同時に「劇団」を意味する。
舞台や楽屋はもちろんのこと、工房やプロデューサーの事務所、カフェや展示用ギャラリー、
そして何よりそこで働く役者やスタッフを伴った総合施設としての劇場、
またそこで生産される舞台作品を指す。
プラハのミノル劇場をはじめ、フラデツ・クラーロヴェー市の劇団ドラック、
リベレツ市のナイヴニー劇場、また今回のロウテク・オストラヴァなど、
チェコの主要な自治体には必ず公立の人形劇場があり、
各々がプロとしてそれぞれの地域の学校公演(とは云っても、劇団が学校に行くのではなく、
先生と生徒が劇場に来る)をはじめ、国内・国外へのツアーを展開している。
オストラヴァを例にとると、劇団員は総勢五十三名、そのうち役者は十九名。
今回ぼくが脚本・演出・美術を担当した最年少向けの作品から、
中学・高校生向けのシェイクスピアまで、常時稼動している演目が十二から十三本。
平日は朝八時半と十時半の二回公演。県内のこどもたちが、
演目に合わせて観劇授業として来場し、約二百席のキャパシティはいっぱいになる。
土曜日、日曜日も家族向けに上演することが多い。
ぼくが驚いたのは、その週末の一般公演も毎回満席になる、という状況だった。
話がそれてしまうが、ぼくは日本やヨーロッパで大型テーマパークを訪れると、
案内係のおにいさんやおねえさんたちの笑顔が気になる。
彼らが一生懸命に微笑めば微笑むほど、提供されているメインのヴァーチャルが
冷たく見えてしまう。たぶん、ロボトロニクスやCGで作られた、
すでに人間不在の演目に「人らしさ」や「ぬくもり」を残そうとする努力に無理を
感じるためだと思う。
チェコの地方人形劇場でも、照明や音響などの舞台設備のほか、
プロデュースやマーケティングなど、もちろんコンピュータなしでは仕事にならないが、
それらはすべて本番の舞台、つまり観客に提供される商品のいちばん核になる
「生(ライヴ)」を支える道具に過ぎない。皆さん良くご存知のように、
舞台というものは、その日の観客の反応と役者のがんばりで毎回内容が変わる
一回限りのもので、そこには、見て、聞いて、嗅いで、
きっと触れられる「人間」と、その人間が手作りの痕跡を残した「人形」がいる。
そして地域の家族たちは、週末になるとちょっとオシャレをして劇場にやって来るのだ。
芝居を観て、笑って、泣いて、終演後、友だちとロビーでお茶して帰ってゆく。
そんな風景を見て、幸せな文化だなあ、と思う。
さて、こういったチェコの公立人形劇場はいったいどのぐらいの予算で
運営されているのだろうか?自治体の大きさによって多少のちがいはあるが、
劇場年間予算として公的に与えられる資金が日本円で約四千万円から五千万円、
そのほか劇団独自の国外ツアーや投資など、さまざまな独立した収入が一千万円から二千万円ある。EUにも加盟し、経済発展いちじるしいチェコなので、いちがいには比較できないが、
生活感覚としては現在、日本の物価の三分の一ぐらい、と云われている。
つまり日本でメンバー五十人ぐらいの人形劇団が、一億五千万円から二億円ぐらいの
年間予算で活動している、という状況だろうか。
また、劇場の補修費用や改装費用は別予算で与えられ、メンバーは公務員に準ずる
社会保障を受けられる。と、こう書くとかなり楽しげな運営と思われるかもしれないが、
近年、政府の教育・文化事業への助成カットが加速しており、
プロデューサーたちは危機感をつのらせているのが現状だ。
でも、しかし、やっぱり、である。青少年のための演劇・人形劇に対する国民と政府の意識は、
他国と比較してもかなり高いのではないだろうか。
これは歴史がそう云っている。
つづく
2006.07.18 / 11:39
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コメント
すあまさん<
あ、ありがたいお言葉‥うう、汗が目にしみるぜぇ、く。
さて、名古屋、旭川、札幌、飯田、富良野と続いた日本ツアーもひと段落、すぐにプラハに帰ります。で、月末にまた来ます。今度は広島。何だかドンドン楽しくなってきたぞぉ。ひっひっひ。
2009.08.12 / 16:53 | 投稿者 のりさわ
先月プラハに行って来ました。その際に訪れたパペットショップ「Tyuhlar Marionety」で、ガスパルのマリオネットを購入!そこで働く大変チャーミングな女性とメル友になりました。彼女が通う、アカデミーには日本人の素晴らしい先生がいて、彼の名は『さわのりゆき』だ、とメールをくれました!
2009.08.03 / 22:28 | 投稿者 すあま

